生活の中のマインドフルネスを学ぶ!「マインドフルネス×マルチタスク」講座

マインドフルネス

2019年2月16日(土)開催のテーマは「マインドフルネス×マルチタスク」

おとなの寺子屋主宰者の平原憲道(ひらはら のりみち)先生と、「医師になるには」講座の2回目の講師で産婦人科医の吉田穂波先生がマインドフルネスについて語り合うという内容。

2人の男の子のパパで「慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室」と「武蔵野大学仏教文化研究所」で教員・研究員として働く憲道先生と「神奈川県立保健福祉大学」の教授として、また産婦人科医でありながら、5児の母であるという穂波先生

2人とも超がつくほど多忙というのは想像に容易いですが、「マインドフルネス」を実践しながら日々ご活躍中とのこと。まさに「マインドフルネス×マルチタスク」を地で行っているお二人です。

マインドフルネスってそんなに多忙でも実践できるものなのでしょうか?

仕事に育児に介護に勉強、家事や人付き合いまで入れると、とてもマインドフルネスの入るすき間なんてないわ…という方にこそ、聞いてほしい講座内容となりました。

ロボット・AI時代に向けて

「共感能力」「慈悲の心」「メタ認知能力」を鍛えよう


参加者のうち数人が「マインドフルネス」を実践したことがないということで、
まずは憲道先生がマインドフルネス瞑想の基本を教えてくれることになりました。

マインドフルネス=mindfullnessは、仏教用語の『念』の英語訳。それは(漢字を分解すると)『今の心』と書きますが、何かに意識が集中している状態のことを指します」

仏教における悟りにいたるための修行のひとつで、2500年以上も前から続いてきた「瞑想」による意識状態がそれにあたるそう。

仏教、瞑想…なんてキーワードが出てくると、一気に敷居が高くなりますが、

マインドフルネスは、仏教瞑想をアレンジしつつ、そこから宗教色を一切省いた取り組みやすい瞑想の形であり、「脳みその筋トレ」と憲道先生は表現します。

この脳みその筋トレが、今、そして未来を生き抜くためにとっても効果的なんだとか。

「僕らの子どもたちが大人になるころには、今ある職業のうち半分はロボットやAIが担っているという話があり、現に医療の分野では、ロボットやAIが人に代わって手術を行うのも当たり前になりつつあります」と憲道先生。

人間の外科医と異なり、あらゆる方向に曲げられる関節を持ち、数十本もの指を巧みに操るロボットの器用さには、とても人間はかないません。ネット環境の進化により、時空を超えた対応や対処も可能となってきているそうで、もはやロボットにできないことはあまりなさそう…。

「でも、人間が持つ能力でロボットが苦手とするものもたくさんあるんですよ」
と憲道先生が提示したのは3つ

1つ目は、『共感能力』。簡単に言えば人の気持ちを察する能力。どんなことを言ったら相手が悲しい気持ちになるか、何をしたら喜んでもらえるとか、人間は常にそんなことを考えて生きているように思います。これは計算ずくの情報処理ではなかなか難しそう。

2つ目『慈悲の心』。「慈悲」とは仏教用語ですが、相手の苦しみを取り除き(悲)、楽しみを与えて(慈)あげたいという気持ちのこと。頼まれたわけではなくても、困っている人がいたら声をかける…そんな場面が目に浮かびます。これもロボットやAIにはまだ難しそうです。

3つ目は、『メタ認知能力』。認知心理学の専門用語で、“自己の認知活動を客観的にとらえ、強化したうえで制御すること”を意味するのだそう。ちょっと難しいですが、平原さんは「自分を取り巻く物事を上から(メタ)俯瞰して見ることのできる能力」と話します。

これらの能力を鍛えるのに有効なのが「マインドフルネス」というわけですが、
考えすぎて頭でっかちになる前に、1分間の瞑想の時間が設けられました。

マインドフルネス瞑想のコツは、雑念を一回受け止めてから払い、呼吸に意識を「戻す」こと

ここで、憲道先生の奥様のちひろさんが、マインドフルネスのやり方を教えてくれました。

1.姿勢よく座る
<座り方>          
・結跏趺坐(けっかふざ)…右足を左太ももの上に乗せ、左足を右太ももの上にのせる
・半跏趺坐(はんかふざ)…左足を右太ももの上にのせる
・あぐら(いずれの座りかたでもよい)

<姿勢の正し方>
・頭が上から一本の糸で引っ張られているような感覚で、背筋を伸ばす
・背筋を伸ばす時は、おへそを突き出すようなイメージ
・両肩をいったん上に上げて、すとんと下に落として力を抜いて楽にする
・手は掌を上に向けて膝の上に軽くのせる(下向きがよければそれでもかまわない)

2.目を閉じる or 1点をぼんやり見つめる(視線は鼻の先にそっと落とすのがポイント)
・閉じる、閉じないは好みでOK 

3.瞑想タイム
<呼吸に集中する> 
・吸って吐くという呼吸を意識する
・吸うよりも吐く時間を長くする(でも、意識しすぎたりコントロールしすぎない)
・理想は1分間に4~6回程度の呼吸回数。

<雑念を取り除く>  
・「お腹すいたな」「あの人どうしているのかな」など、雑念が現れても慌てない
・「あ、今、余計なことを考えたな」と思ったらいったん受け止める
・すぐに「雑念」とラベルを貼り、そっと頭の外に置いて、再び、呼吸に意識を戻す

憲道先生も「雑念が表れたら、呼吸に意識を戻す。この「戻す」という作業がとても大切なんです」と声を揃えます。
ちひろさんが、「リーン」と鐘を鳴らして1分間の瞑想がスタート。

5秒吸って、10秒吐く…。むむ、苦しい。じゃ、6秒吸って、8秒吐いてみようか。
ん?今度は楽すぎる。じゃあ、7秒吸って…などと考えているうちに、あっという間に1分間の瞑想は終了。

よくよく考えたら、自分が息を吸って吐いていることに意識を向けたのは、
数年前にヨガの体験をして以来。なんだか、心がゆったりとしたような気分になっていました。

マインドフルネスのはじまりと2つの大きな流れ

1分間の瞑想が終わると、ちひろさんが憲道先生に「15分でマインドフルネスについて解説してくださいね」と言いながら、「15分が過ぎたら、みんなで彼を冷たい目で見つめてくださいね~」とにっこり笑い、なごやかなムードで講義がスタートしました。

マインドフルネスの歴史と体系については、過去の投稿にもありますが、念のためこちらの記事でもおさらい。

個人的な感覚では、「マインドフルネス」という言葉をテレビや雑誌、SNSなどで見かけるようになったのはここ2~3年のことのように思いますが、 憲道先生曰く、マインドフルネスブームの始まりは1960~70年代までさかのぼるのだそう。

その立役者となったのが、アメリカの分子生物学者ジョン・カバット・ジン博士とベトナム人でフランス在住の禅僧ティク・ナット・ハン老師。前者は医学・科学的アプローチでマインドフルネスをプログラムとしてまとめ、後者は瞑想を日常生活に取り入れられるよう、詩や小説、音楽などのアートを介したマインドフルネスを確立し広めたそう。

憲道先生は、アメリカとフランスを舞台にした2つの流れが現在のマインドフルネスブームを作り出したことを覚えておいてほしいと言います。

時間軸に沿いながら、アメリカでのブーム、フランスでの広がりを徹底的に解説する憲道先生。15分を優に超えてしまいましたが、軽快な語り口に参加者みんなが引き込まれてしまいました。

仕上げに、3分間の瞑想タイム。

2回目ということで、さっきよりはうまくできるかなと思いましたが、記者の場合、「マインドフルネスを実践している私」を意識しすぎて、呼吸への意識はやや薄かったように思いました。

 心の平穏に有効だった穂波先生のマインドフルネス

3分間の瞑想のあと、少しの休憩時間が設けられ、 10分間の瞑想タイムが設けられました。

同じように、ちひろさんの鳴らす鐘の音でスタート。
正直、「10分持つかしら…」と思いながら始めましたが、気がついたら終わりの鐘の音が「リーン」と響いていました。

今度は、頭がジンジンするくらい集中できたように思います。肺に空気が入って、膨らんで、またゆっくりしぼんでいく。呼吸とじっくり向き合う時間となりました。

さて、いよいよ穂波先生のお話です。

5人の子育てと仕事、勉強、家事と忙しい毎日を送る穂波先生。
「さまざまなことが同時進行で進んでいると、どれも中途半端になってしまいイライラしてしまうこともあるんです」と話します。

子どもたちを叱ってしまったり、怒鳴ってしまったり…。子育てにおいて、どうすれば優しく、寛大でいられるかを日頃から考えていた穂波先生は、ここ10年ほど、アンガーマネージメントやセルフコントロールについて勉強。

怒りや失望といった感情を見つめると、その根本には大切な人に対する愛がある。そんなことに気づいた時から、自分自身を見つめることはとても大事だと思っていました」 と話します。

穂波先生がマインドフルネスを始めたのは半年前。前回のおとなの寺子屋で憲道先生の話を聞き、がぜん、興味を持ったと言います。

「常にいろんなことを同時に考えなければいけない生活の中に、呼吸にだけ意識を向けるマインドフルネスを取り入れることで、自分自身にどんな変化が生まれるのか、実験的に始めてみたんです」と言います。

とはいえ、分刻みでタスクを抱える穂波先生。 日常の中に取り入れるのは難しかったのでは?と想像しますが、

「まずは1分。次の日は2分…というように少しずつ時間を増やしていきました。どんなに余裕がなくても時間を作ろうと思えば作れるんだということがわかりましたね」と言います。

朝、だれも起きていない静かな時間が、穂波先生のマインドフルネスタイムなんだとか。
最初は雑念を振り払い、呼吸に意識を向けるだけで精いっぱいだった穂波先生ですが、徐々にさまざまな気づきが生まれたと言います。

「息をしているなぁと感じられることで、私は生きているんだなぁ。生かされているんだなぁと感じられるようになりました。呼吸をするたびに、新しい1秒が始まる。そんな風に感じるようになったら、10分の瞑想時間はあっという間に過ぎるようになりました」

また、プライベートで悲しいことが続き、心が不安や喪失感で押しつぶされそうになったときは、長い瞑想タイムを設けたそう。

「ただ、1秒2秒ってカウントするだけでは悲しい方向へと気がそれてしまいがちだったので、なにか集中できるような言葉をと思い、『ありがとう』を繰り返し唱えるようにしました」

すると、心の大部分を占めていたネガティブな感情が、少しずつポジティブに変換されていくようになったのだそうです。

穂波先生は言います。「マインドフルネスは、『仕事の効率化』、『脳を鍛える』といったことに活用できますが、私の場合、悲しみを癒し、気持ちを平穏にさせ、不安な心を救うことにもとても有効なものでした」

マルチタスクをこなすのにマインドフルネスが有効な理由。

穂波先生の話を受けて、憲道先生が「なぜ、マインドフルネスは忙しい日々を送る人に有効なのか」という話を始めました。

キーワードは「マルチタスク」「マルチスイッチング」

マルチタスクとは、複数のやらなければいけないことを同時進行で処理している状態を指します。まさに、穂波先生の生活はマルチタスクの嵐。

「でもね、僕らの脳は実際には『マルチタスク』を処理できない構造になっているんです。ひとつずつ素早く処理して、切り替えて、またひとつ処理する。行われているのは実は『マルチスイッチング』なんですね。」

同時に処理されているように「見える」(または「感じる」)動作は、実は非常に細かく分かれた意識の流れが入り乱れて進んでいるだけで、スイッチのオンとオフがひっきりなしに行われているのだと言います。

でも、我々の通常の意識はその微細な細切れを認識できるほど精密ではないので、あたかも「多くのタスクが『並行して』流れているように感じているとのこと。しかも、当然、マルチスイッチングが行われるときの脳には、その頻繁な切り替え作業のせいで多大な負荷がかかっており、脳のリソースを浪費するのみならず、外界からの刺激にも非常に弱い状態になっているそう。

夕飯の支度をしながら、洗濯機を回し、子どもの話を聞いて、電話が鳴ったら対応して、明日の朝ごはんのメニューを考え…なんて主婦には当たり前のような光景ですが、必ずしも本来の意味での「マルチタスク」かどうかは反省が必要です。おまけに、ここで子どもがケガをしたなんて刺激が加わったら、パニック状態になるのは想像ができます。

「マルチタスクを効率的に行う大事なことの一つ目は、「スイッチング」の頻度を減らし、同時に抱えるタスク数を減らすこと」

つまり、やることを短時間に詰め込まないように計画するということ。

このときに、30分で3つのことを終わらせようと考えるのではなく、タスクをしっかり分けて、時間で区切るのがいいそうです。(今は料理を作る、10分経ったら洗濯機を回す、そのあと子どもの話を聞くというように、できるときはひとつひとつをしっかり片付けていくとよいそうです)

「次に大事なのは、タスクを『正中線』で受け止めるようにイメージすること」
正中線とは武道を行う人には馴染みの言葉ですが、おでこ、あご、へそを通る、身体の中心線のこと。

忙しいからと言って、半身で適当に子どもの話を聞くとか、片手で電話を取るのではなく、素早く身体をかえし、まっすぐ対象と向き合うと、シングルタスクに集中できるため処理能力が高まり、感情に振り回されることが少なくなると憲道先生は言います。

「そして、マインドフルネス瞑で脳を鍛えておくこと。禅のお坊さんなど、瞑想の進んだ人は集中力が非常に高く、行動もとても速く見える。

これは、瞑想で脳の前頭前野(意思決定やプランニングなど高度な処理を行う脳の最高中枢)が鍛えられることで、一般の人がとらえている1秒の感覚が長くなり、同じ時間で素早く多くのことが処理できるようになっているからなんです」

脳のマルチタスクへのスイッチングは、猛スピードで切り替えられており、一般の人は「同時並行で進んでいる」と認識しますがそれは幻想です。

瞑想で脳を鍛えると、その無駄なスイッチング処理に気づけますから、集中してシングルタスクを丁寧に素早く処理することを重ねる方が、いわゆる「マルチタスキング(実はスイッチング)」より結果として遥かに効率がよいことに気づくというのです。

マインドフルネスで過去への後悔、未来への不安を取り除く

マインドフルネスで脳を鍛えると、結果として処理能力が上がる…そんなことが分かってきましたが、穂波先生は「心の平穏」にも有効だと話していました。 これは一体どういうことなのでしょうか。

「人は、『過去への後悔』と『未来への不安』で心を乱します。あのときあんなこと言わなければよかった、将来こんな風になったらどうしよう…。でも、実はどちらも、いくら考えても無駄なことなんですね」と憲道先生はバッサリ。

 未来への不安は、確かにまだ起きていないことだから考えても無駄というのはわかりますが、過去への後悔はなかなか払拭できません。

「例えば過去の『失敗した嫌な記憶』です。1980年代まで、人間の記憶は正確なものだと思われていましたが、その後の研究では、脳に蓄積される記憶は非常に不正確で、信用できるものではないということが分かっており、今や認知科学の常識です。」

脳から過去の記憶を取りだすとき、いわゆる『過去の事実』をすっと取りだし、さっと提示しているように見えますが、実はそこかしこが改ざんだらけなのだそう。

思い出す瞬間の天気や気圧、もちろん気分にも左右されてしまい、聞き手の聞き出し方によっても大きく変わってくるとか。さらには、一旦、取りだされた記憶を再度脳に「戻す」ときも、元の状態には戻されておらず、思い出したものを再構成する形で内容も変更されてしまうのだと言います。

ところが、自分ではそれを「過去の事実」と感じている。つまり、自分が「事実」だと思っている過去はあてにならないという科学的な事実です。

「『過去』も『未来』も信用できないなら、いったい何が信用できるのか。『今』、『ここ』で唯一、信じられるのが、自分自身の『呼吸』だけなんですね」

息を吸っている、吐いている。そのことを全身全霊で実感できるのが、マインドフルネス瞑想。

不安や後悔が心に浮かんだら、いったんそれらを受けて、心から追い出そうとはせずに「気づき」、横に置いて、また呼吸に戻る。判断はしない。

不安や後悔を否定も肯定もせず、戻るべき場所に戻るという動作が見につくことで、今の私が確立されていき、これでいいんだと自己肯定できるようになるのかもしれません。

「とはいえ、どうしても心から追い出せない不安や後悔もあると思います。そういう時には、心に鉄の壁を作ってその中で大いに悩むんですね」

ほかのことを一切考えぬよう、心を『鉄の壁』で覆っているイメージを描き、時間を決めて徹底的に負の感情と向き合う

1日中どよんとした気持ちをだらだらと持ち続けるのではなく、しっかりと瞬間、瞬間で受け止めてから、切り替えて次に進む。 これも、マインドフルネス瞑想を習慣にすると、切り替えが上手になり、うまく対処できるようになるかもしれません。

15時からスタートして、気が付いたら外は薄暗くなり18時に差し掛かろうとしていました。 
3時間という充実した時間でしたが、参加者は「もっと話を聞いていたい」という気持ちにあふれ、憲道先生も穂波先生も「話足りない」という笑顔で幕を閉じました。

日々忙しくしていると、もっと素早く、効率的に、たくさんのことを処理できるようになりたいと焦ってしまいますが、それと同時に、もっとゆったりとした気持ちで、1分1秒をいとおしく感じられるようになりたいとも思います。

マインドフルネス瞑想が、相反しているように見える2つの事象を紐解き、より効果的に心に働きかけるというのあれば、穂波先生の真似をして、朝のだれも起きてこない時間に1分からマインドフルネス瞑想の時間を取り入れたいと思いました。  

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