アメリカ合衆国ユタ州留学体験レポート「新しい価値観との遭遇」

海外体験ルポ
レポーター紹介

楠元 暁葉

神奈川県立厚木高等学校卒業

Host School:Layton Christian Academy

不安を感じつつ留学へ

日本には多くの学生がいるが、そのなかでも高校生として、海外に留学できる人は多くない。

嬉しいことに僕は様々な幸運に恵まれ、高校交換留学に挑戦するチャンスを得た。 そんなラッキーな状況にいた自分も、実際に留学に行く前は本当に留学に行くべきなのかということを考えて、不安を感じていた。なぜなら周りの同級生たちは一人残らず、受験勉強を頑張っている最中だったからだ。

やはり一人だけで周りと違うことをするのは、なかなか辛かった。 さらに、自分を不安にさせた要素は「留学の魅力がよくわからない」ということだった。

例えば、留学に行く前にたくさんの人から留学に行く理由について聞かれたり、留学団体に提出する エッセイに留学に行きたい理由を書くことがあったが、そういった時は「異文化・・・国際感覚・・・多様性・・・」といった曖昧なことや、「海外に行くべき理由」でググればすぐに出てくる事をほぼそのまま喋っていた。

自分で何が魅力的なのか説明できない選択肢を選ぶのは、簡単ではなかった。とは言え、実際にやってみるまではその魅力に気づかないということはよくあることだ

自分の経験からしても、山を登り始める時は「まあ、空気はきれいで落ち着けそうだから登ってみるか」と考えていたのに、下って来た時には「登る時は知らなかったけど、この山の景色は絶景で、山小屋のおっちゃんは面白いし、飯はうまいし、鹿はいるしで最高だな!もう一回登りたいな!」となっていることはよくある。

しかし、留学はそんな気軽にできるものでもないので、不安を感じていたのだ。

そんなことがありつつも、結局、僕は2020年8月から2021年5月までアメリカ合衆国ユタ州で留学生活を送った。自分は留学から帰ってきてから、行く前は知らなかった留学の魅力にたくさん気がついた

そしてそれらが、僕の今後の人生に非常に大きなインパクトを与えてくれるであろうと感じている。そういうことで、僕の体験談を通して自分が実際に感じた留学の魅力を伝えることができたら幸いだ。

クレイジーな人々

“I am a crazy American”僕のホストパパ(Yavo)はたまにそんなことを言う。最初はジョークかと思っていたが、彼は客観的に見てもかなりCRAZYな人生を歩んでいる

Yavoはカリフォルニアで生まれた。家が海兵隊の基地の近くにあり、親戚も友達にも軍人が多かった事から彼も軍隊に入ることを目指していたが、小学生の時にアニメとコンピューターにはまり、NERD( アメリカ版オタク)になった。

そんな彼の中高時代は悲劇の連続だったという。Yavoの父親が警察官だったことで、中学、高校のワル達に目を付けられ、いじめられるようになってしまったのだ。

いじめはエスカレートし、会うたびに殴られる、車で轢かれそうになるといったことがたくさん起こるようになった。

メガネのオタク少年だった彼はこのままでは命が危ないと思い、カンフーとボクシング のトレーニングを始めた。 格闘技のトレーニングを積み、強くなった彼はなんとワルたちを撃退できるまで成長した。

しかし、高校内でワルを撃退するために暴力をふるっていたことが学校にばれ、校則違反で退学処分になってしまう。転校した先の高校でも同じことが起こり退学処分となり、それが何度も続いた。

結局、11もの高校を転々とすることになる。最終的には通える高校がなくなったので、地元のコミュニ ティカレッジに通って高校卒業の単位を取ったそうだ。そして16歳で高卒の資格を取得した。ここで悲劇が終わるかと思いきや、そうではなかった。

16歳で高校卒業した後の2年間をホームレスとしてテントで暮らすことになってしまったのだ 。

写真はイメージです。

Yavoの父親は小さい頃から彼に対してたまに、「高校を卒業したら自立して一人で暮らすんだぞ。」と言っていたが、ホストパパはそれを真に受けていなかった。

しかし、彼の父親は本気だった。 ホストパパが高校の卒業資格を受け取った日に実家に帰ると、家の鍵が新しくなっていた。そして庭には彼の部屋の荷物と寝袋が置いてあった。

何度懇願しても、彼の父親はドアを開けてくれなかったため、それ以降の2年間はホームレスとしてテントや車の中で寝泊まりし、ありとあらゆるバイトを経験したそうだ。

このストーリーはホストパパと僕が近所を散歩しているときに10分くらいで語ってくれたものだ。僕はホストパパの話すストーリーに毎回、衝撃を受けていたが、本人にとっては人生で起こったことのほんの小さな一部でしかないらしい。 

まるで知らなかった世界へ

このような感じで、自分は彼に壮大な体験談や、アイデアなどを沢山教えてもらった。 そのどれもが自分の聞いたことがない刺激的なものだった。

戦場での戦い方、行動の仕方、軍事戦略、ハッキング、砂漠と雪山での生存方法など、自分から積極的に調べることもないような知識や、今後の人生でどう役立つかも分からないけれど、いつかきっと役に立つであろう知識を得ることができた。

ホストパパは自分の全く知らないタイプの人間だった。そしてそういった自分の知らないタイプの人間はアメリカにいっぱいいた。彼らは僕にとって未知の世界を生きていた。お金の使い方もキャリアも生きる動機も全く違った

彼らと話し、行動を共にする中で、自分はこれまで知らない世界にどんどん飛び込んでいくことができた。そして人生のロールモデルが増えていった。

彼らのストーリーは夢物語でも、インターネット上の眉唾物の話でもなく、リアルのストーリーだった。ゆえに自分も、本当にそれを実現するための方法を真剣に考えることができた。

文化の違いは、価値観の違い

留学を通じて異文化を経験することもできた。

留学をしたり、海外に住むことで異文化を学べるという利点はよく言われることではあるが、自分は留学に行くまで、文化の違いということが何を表すのかよく分かっていなかった。

それまでは文化の違いといえば、家の中で靴を脱ぐか脱がないとか、いただきますを言うか言わないかとか、そんなことだろうと思っていたが、実際には全く違った。自分(私)は文化の違いとは、ルールの違いであり、世界観の違いだということに気が付いた。

ある日、自分がホストパパと家にいると、ホストシスターが家に帰ってくるなり “I got into a fight with my friend.”(友達と喧嘩をしてきちゃったの。)と言った。

それを聞いたホストパパが放った一言は、“So did you win?”(それで、勝ったの?)だ。 日本の一般的な家庭なら、そもそも友達とトラブルを起こしてしまったことを問題にするだろうが、この家庭では、「勝ったか、どうか」のほうが重要だった。

このようにアメリカの生活を通じて、自分(私)は、「強さは美徳である」という、スパルタの人々のような価値観を目の当たりにした。

「強さは美徳である」という価値観が、かなり多くの人々の中で共有されていることに気が付いた後は、人々の行動が日本とアメリカで驚くほど異なっている深い理由についても自分なりに考えることができるようになった。

こうした日常的に起こる衝撃的な経験を通して、今までは知らなかった様々な価値観に触れることができた。 それと同時に、自分の持っていた価値観のかなりの部分が日本社会、日本の文化、自分の地域、自分の家族からきていることに気が付いた。

そしてアメリカの生活で、その価値観に囚われない自由な状態になり、本当にそれが自分に合うかどうかということに気が付くことができたのだ。

アメリカの生活を経験していなければ、格闘技を始めることもなかっただろう。多分(もしかしら)、受験勉強をして、同級生と同じように大学に行っていたかもしれない。

これから留学を考えている人へ

留学することが、誰にとっても最善の選択肢というわけではないが、少なくとも自分にとっては最善だったと思う。日本の日常を脱出したことで、新しい選択肢とそれを実行する勇気を得た

山登りをやってみて、実際は全然楽しくなくても、下山してから温泉に浸かり、ラーメンでも食べてぐっすり眠れば、次の日には山登りの最悪さのことなんてサッパリと忘れているだろう。貴重な土曜日と数千円が無駄になったのはちょっと辛いかもしれないが、嘆き悲しむ程の事でもない。

山登りに挑戦するのは低コストだが、留学に挑戦する時のコストは山登りとは比べ物にならない。経済的コストも時間的コストも相当なものだ。

多くの犠牲を払って、10代の1年間を棒に振るのはかなり辛い。 少なくとも温泉とラーメンで復活できる辛さではない。 留学は他のチャレンジに比べて明らかにハイリスクだ。だからこそ、自分は留学をお勧めしたいと思う。

なぜなら留学には驚くほどのハイリターンがあるからだ。 自分の留学生活は完璧ではなかったかもしれないが、想像を超える大きなリターンを得ることができた。

留学を通じてでしか学べないことを沢山学ぶことができ、そこでしかできない経験を沢山することができた。 だから皆にもお勧めしたいのだ。高校生よ、リスクをとって、留学に行こう!

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